【小説】


■羽鳥悠提供

『悠久の羽第壱章(トリックスターver)』
(※ブログに連載しているオリジナル小説『悠久の羽』を読んでからお読みいただくと更に楽しめます)



…このカバリア島に来て、もう1年の月日が流れようとしていた。
俺の名前は如月空(きさらぎそら)
だが、それが本当の名前なのかは分からない。この名は…いや、すべての物は
真美(まみ)が付け、教え、用意してくれた物だ。
気がついた時、俺には何の記憶も無かった。
どこで生まれ、育ったのか…自分の名前すら出て来やしない。
コーラルビーチの海辺に倒れていたところを真美に助けられ、
…今こうして生活する事が出来ている。
ただ、俺はこの島の住人達と容姿が全然違った。
耳も全然違えばしっぽも生えていないのだから…。
多分、俺一人だったらここの住人達と打ち解ける事は出来なかっただろう…。
すべては真美が説明し、庇い、今の俺の居場所を作ってくれたのだ。
ただ、こんな事を言ったらバチが当たるだろうが…正直何かが息苦しかった。
すべてが決められ、用意され、そこに俺の意見や意思と言う物は存在しないのだから。
もちろん俺の意思…そのものを押し切ることは可能だろう。
しかしその事によって、今の居場所を失いたくなかった。
そして何より……真美に嫌われるのが怖かった。

「…そろそろ時間か……」
真美を迎える準備をして家を出る。
彼女はコーラルビーチのショップで毎日夜遅くまで働いていた。
真美が出てくるのを店の近くで待つ。
すると真美が疲れ切った顔で店から出てきた。
…これもいつもと変わりない光景だ。
ちなみに真美はカバリア島でいう種族では兎に当たるらしい。
いつもなら元気な耳もさすがにしょんぼりと垂れていた。

「…お疲れ様」
俺がそういうと真美は疲れ切った顔で

「お疲れー疲れたよーー」
…毎日同じ会話だ。この時の俺は出来るだけ明るい顔で迎えるようにしていた。
心は苦しくても、少しでも真美の笑顔が見たかったから……。
真美は俺を養う為に昼から深夜まで毎日バイトをしている。
それもこれも…俺がなかなか働く事が出来ないから。
見た目がまったく違う俺を雇ってくれる所も少なかったが、その事で周りからの
いじめが酷く、情けない話だが…どうしても長続き出来なかったのだ。
そう、俺が居る事によって真美には苦労しかかけていない。
ならばいっそ、居なくなった方がいいのではないか?
そう思う事もたびたびあったが、それを真美に言うと
ボクサーばりのアッパーカットを食らった。

「私がしんどい思いをして働いてるのは何の為?空と一緒にいる為でしょ?
それに空には家の事をしてもらったり、空にしか出来ない仕事がちゃんとあるんだから…
外のお仕事は焦っちゃ駄目だよ?きっと良い所が見つかるから…大器晩成って言うでしょ?
私は空はそうなるって信じてるから」
そう言われて俺は今の今まで…生きてきた。
でも真美に苦労をかけ続けるのはもう嫌だった。
それに…このままだと取り返しの付かない事になりそうな…
そんな気がした。彼女を失いそうな…そんな世界が…。
だから俺は伝説の宝を探す事にしたんだ…このカバリア島に伝わると言う伝説の宝を……。






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